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日比谷公会堂のショスタコーヴィチ・プロジェクト開幕へ

2007/11/02 20:54

 

●破天荒のプロジェクト
 指揮者の井上道義さんが進めているショスタコーヴィチの交響曲全曲演奏会が
いよいよ3日から始まります。井上さんは現在、オーケストラ・アンサンブル金沢の
音楽監督を岩城宏之さんの後を継いで務めるベテランです。
 長身でスキンヘッドの容姿は異彩を放ち、才気煥発ともエキセントリックともいえ
るユニークなおしゃべりでも人気ですが、名匠セルジュ・チェリビダッケに師事し、
マーラーの演奏では英国のロイヤル・フィルハーモニック、米国シカゴ交響楽団
といった世界の超一流どころを指揮し、圧倒的な成功を収めています。
 そんな井上さんがライフワークの一つであるモーツァルトとともに、真の天才で男
の音楽を書いたと、ここ数年ぞっこんなのがショスタコーヴィチ。旧ソ連の体制との
闘いというステロタイプの芸術の権力の対峙という構図を超えて、「ここまではっき
りと物事を言い切る自信をもった男はいない。その男気に惚れた!」と井上さんは
常々、語っていました。
 3日から12月9日まで、東京・日比谷公開堂で行われるショスタコーヴィチの交
響曲全曲演奏会は、そんな井上さんの熱い思いが凝縮したステージ。昨年の夏から
は何度もロシアを訪れ、現地のオーケストラを前にタクトを振るい、ショスタコーヴィ
チの作品を演奏したことの集大成の場となります。
 登場するオーケストは作曲者の生地を代表するサンクトペテルブルク交響楽団を
はじめ、井上が若くして音楽監督を務めた新日本フィルハーモニー交響楽団のほか
3つの国内オーケストラが次々に登場します。

●往年の音楽の殿堂、日比谷公開堂がよみがえる
 会場となっている東京の日比谷公会堂は戦前、戦中、戦後の日本の音楽シーンを
ささえた音楽の殿堂であり、この文面を執筆します記者小生が生まれた昭和35年
(1960年)には、社会党(現・社民党)の浅沼書記長が登壇中に刺殺された政治の
場所でもあります。
 サントリーホールをはじめとする現代のコンサートホール事情からは遠くおかれた
日比谷公開堂。2000人超のキャパシティーを持ちながら、トイレなどの施設も貧弱
です。椅子は窮屈で、床に敷き詰めたプラスティックのタイルも、今ではなかなか
お目にかかれないような代物で随分と古くなっています。でも、建物から発散される
風格には素晴らしいものがあり、黒澤明の名作「素晴らしき日曜日」にも、あこがれの
場所として登場するように、音楽や映画、美術を掌中でじっくりと楽しんだ時代の
心豊かな空気が伝わってくるようです。

●私財を投げ打って入場料は3000円
 そんな日比谷公会堂でクラシック音楽の演奏会、それも外国のオーケストラが来日
してのコンサートが行われるのは何年ぶりのことでしょう。今回のショスタコーヴィチ
のプロジェクトはショスタコーヴィチの交響曲が全15曲中7曲も日本初演されたことに
発想を得た井上さんが、10月末から12月半ばまでのほぼ1カ月半をほとんど連日
借り切って行う大計画。
 日比谷でショスタコーヴィチの作品が日本初演された昭和30、40年代のチケット
価格に少しでも近づけようと全席指定の3000円の超低価格! 企業の支援を受けて
はいますが、台所は火の車という表現では追いつかないほどの状況。
 井上さんはこのプロジェクトを成し遂げるために首都圏で家が買えるほどの私財を
注入しているとの観測もありますが、意気に感じての募金も随時受け付けています。
どうぞ、皆さん、熱い支援を!

●熱狂のリハーサルに真実の響き
 サンクトペテルブルク響とロシアで演奏会を行った井上さんは、10月30日に
オーケストラとともに帰国。日比谷公開堂では日夜を通しての熱いリハーサルが佳境
を迎えています。
 サンクトペテルブルク響は演奏会初日の3日に交響曲第1番から第3番、4日に
第5番と第6番。次の週末の10日には第7番「レニングラード」、11日に第10番、
第13番「バビ・ヤール」と一挙に8曲を演奏。
 オーケストラの楽譜が国家機密としてマイクロフィルム化され、ナチズムと戦う同士
である英米の連合国側に潜水艦などで秘密裏に運ばれ、全世界に向けて演奏が行わ
れた第7番「レニングラード」を世界初演した名門にあっても、これほどの短期間に
ショスタコーヴィチを集中して演奏するのは初めてのこと。オーケストラの取り組み
も必死だ。
 「みんな何やってるんだ! もっと練習だ! いい演奏ができない奴は、もう二度
と日本の土を踏むことがないと思え!」
 11月1日のリハーサルの後、コンサートマスターの檄(げき)が飛ぶ。メンバーの
誰もが目の色を変えた瞬間だ。2日は朝の9時から楽員が日比谷公会堂に集まり、
パートごとの練習を始めた。指揮者なしのプレーヤー自らの特訓。外来オーケストラ
が自主練習、それもパートに分かれてのこまかな練習をすることは異例中の異例。
 2日の午後5時から始まったリハーサルは、4日のプログラムの第5番で開始。
ショスタコーヴィチの交響曲の中でも特別に有名な作品が、古色蒼然とした会場に
鳴り響く。
 鉛色とも、鈍い金色ともいえる光彩を感じさせる音色には、ショスタコーヴィチが
作品に込めたさまざまな心情がたっぷりと含まれるよう。
 現在のコンサートホールにはないストレートな響きが演奏の良否を容赦なく提示す
るが、それと同時に作品の本質を白日の下へと晒す切実さを示してしまう。井上さん
の奇抜ともいえるアイデアが、実は鋭い洞察であったことが図らずも証明された格好
だ。第2楽章の深々とした味わいは、聴く人にしみじみとした人生観照を促して興味
深いものがある。
 マーラー、ブルックナーに続く“ブーム”の予感が取りざたされ、実現せずにいた
ショスタコーヴィチ。歴史に巨大な名を刻んだ“最後のシンフォニスト”の実像を探
りに走れ! 初日の開演は3日午後3時。3000円を持って日比谷公園に集合しま
しょう!

 問い合わせはカジモト・イープラス0570-06-9960。
 井上さんのオフィシャルサイトhttp://www.michiyoshi-i
noue.com/には記者小生執筆の作品紹介のコーナーもございます。

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